歯医者さんでの治療
昨年末、ひさ吉の歯科治療が終了しました。
診察券の裏の予約の記録を見ると、昨年の6月からほぼ2週間に一度の割合で16回通ったことになります。
というと、どれだけ虫歯があったんじゃ~!
ということになんですが、虫歯は初期のものがたったの一本、しかし、この虫歯を削ってつめるまでに16回もかかってしまったのです。
ただし、これは決して歯医者さんの腕が悪かったのではありません。
むしろ歯科の治療に対して人並み以上の抵抗を示す自閉症児のひさ吉に対し、
患者の立場に立った、非常に協力的な歯医者さんであったが故のことです。
今までのひさ吉の歯科における治療のことを考えれば、いくら感謝してもし足りないほどです。
先生、歯科衛生士のお姉さんはじめスタッフのみなさん、ほんとうにほんとうに、ありがとうございました。
1.歯科医院遍歴
昨年の春にこちらに引っ越してくるまで、前の町でひさ吉は4件の歯医者さんにかかりました。
はじめの3件の歯医者さんは、押さえてでも治療するという方針で治療してもらっていました。
おそらく、それぞれの虫歯の状態も放置できない状態であったということもあったと思います。
私は、子どもは歯医者では泣くものだ、と思っていたので、その治療方針に疑問を抱くことは無く、暴れるひさ吉を治療してもらえるだけでもありがたい、と思っていました。
でもやはり、治療室から泣き叫ぶ声が聞こえてきたり、抵抗して汗ぐっしょりになって疲れた様子で診察室から出てくるひさ吉を見ると、とても切ない気持ちになり、
他の自閉症の子が「泣かずに治療を受けている」という話を聞くと、そのお母さんに聞いてその歯科医院に変わるというのを繰り返していました。
今思うと、この頃、押さえつけられて治療を受けるということを長く続けていたことが、ひさ吉の歯科及びその他の医療行為への抵抗を強くしてしまったのではないかと、親として反省しています。
4件目の歯医者さん「O歯科」も自閉症の子を持つお母さんに紹介してもらったのですが、「押さえつけて治療しない」という方針の歯医者さんとのことでした。
私はそのとき初めて「押さえつけて治療しない」という考え方があることを知りました。
「O歯科」でのはじめての診察は、一度は診察室に入ったものの、すぐに泣いて出てきてしまいました。でも、そこで無理に連れ戻されることはなく、待合室でいすに座って歯科衛生士のお姉さんと歯を磨いてその日の診察は終わりました。
そのときのひさ吉の歯は、以前治療してつめたものが取れて大きな穴が開いていたのですが、それはそのまま放置ということになり、「そのままでいいのかしら」とも思いましたが、乳歯で本人も痛がっていないようなので(普通だったら痛かったりしみたりするんでしょうが、感覚的に普通と少し異なるからなのか、ひさ吉がそれを意思表示することはありませんでした)、それ以上進行しないようにフッ素塗布や歯磨き等をしながら、治療ができるようになるまで治療はしない(できない)とのことで、私は「それもアリなんだ。」と、なぜかほっとして帰りました。
この「O歯科」さんに約一年、20数回通いました。
初診では診察室に入れなかったひさ吉でしたが、次の診察では診察室のいすに座ることができ、その次にはエプロンを付けることができ、回を重ねるごとに、歯を磨いてもらうことができるようになったり、診察室のいすに仰向けで寝ることができるようになったり(この仰向けで寝るというのはひさ吉にとってとても不安らしくかなり苦手)・・・、と本当に少しずつできることが増えてきて、一年を終わる頃、やっと歯に開いた大きな穴に仮詰めをしてもらうことと、器械でクリーニングをしてもらえるところまでたどり着きました。
この歯医者さんの診察室はあまり大きくなく、付き添いが入れるスペースが無かったため、実際にどのようなアプローチをしてくださったのかはわからなかったのですが、たまに診察室で説明を受けるときに見た感じでは、担当してくださった歯科衛生士さんがとてもよくしてくださり、どのくらい自閉症の知識があったかは定かではありませんが、押すところと引くところを心得ているようで、少しずつできることを増やしていってくれたようでした。
さあ、いよいよ治療らしくなってきたぞぉ~っ、と思っていたところで引越しをすることになってしまいました。せっかくいい歯医者さんにめぐり合えたのに、また一から捜しなおさなければならないかと思うと、どっと疲れてしまいましたが、そんなことは言ってられません。
さっそく新しく住む地域の歯医者さんをインターネットで調べてみると、「自閉症児OK!」なんて書いてあるところはありませんでしたが、意外に「押さえつけて治療しない」という歯医者さんが多いことに気づきました。どのHPもきれいで、院長先生の治療方針がきちんと書かれているものが多く、その中からうちの子に合いそうな歯医者さんをいくつかピックアップしておき、最終的に「K歯科」さんが転入する養護学校の校医さんでもあったので、診察を受けてみることにしました。
「K歯科」さんでは、はじめにひさ吉の様子の聞き取りのようなものがあり、一通り今までの経緯をスタッフの方にお話させていただきました。
診察のほうは、初回はいすに座ってエプロンを付けるところまではスムーズでしたが、先にミラーが付いた器具以外は、口に入れようすると手で払いのけていました。その後、数回ほどでミラー以外のその他の器具(電動でないもの)を入れても大丈夫になりましたが、電動の器械のほう(削ったり、吸ったりするもの)のほうはそれらがかかっている台が近づくと手で遠くに押して、拒否していました。
これらのひさ吉の様子から、今、虫歯の箇所を削るのは難しいと判断されたのか(ここは母の想像です)、数回の診察の後、とりあえず虫歯のところに何か詰める治療をしようとしてくださいましたが、ひさ吉は頑固にそれらを払いのけ、うまくいきませんでした。治療後、今のままでは治療は難しいので、月に一度ほど母親の負担の無い程度で通って、徐々に慣らしていったらどうかということを提案され、帰りました。
帰宅後、月一よりももう少し頻度を上げないと前のことを忘れてしまうし、これまでの診察での様子を踏まえてもう少し久宗のことをお知らせしなくてはと思い、「K歯科」の先生にメールをさせていただきました。「K歯科」さんはHPをお持ちで、そちらにアドレスが書かれていたのです。どこの医療機関でもそうですが、基本的に先生はお忙しいのでゆっくりお話もできないし、私のようにじっくり考えてから伝えなければならない場合には、メールアドレスが公開されていたのはとても助かりました。
私はどれだけ回数を通ってもよいから、治療できるようになるまで通わせていただきたいという旨をお伝えしたところ、快いお返事を頂きました。
2.治療に向けて
治療に向かっての練習が始まるのですが、その中で歯科衛生士さんのほうから、治療できるようにするには、
① 治療用のいすを倒した状態で枕に頭をつけてきちんと寝ることができること。
② 一定時間、動かず口を開け、手も出さずにいられること。
③ 治療に必要な器具、器械を口の中に入れることができること。
が、必要であるという明確な目標が設定されました。
これに対し、私のほうからも、
① きちんといすの上に寝ていることができないのは、何をされるのか不安だからなので、何をするのか、使う器具などを見せてからやることで解消できること。
② 治療中、ずっとおとなしくしているのは無理なので、声を出して「10」数えれば、その間はなんとかじっとしていられること。(「10」を声を出して数えることで、「終わり」に見通しがもてるので我慢できる)
③ 手が出てきたら、「きをつけ」と言えば手を体の横につけるので、手で払いのけるのを防ぐことができること。(拒否しよういう気持ちが強くて手が出ている場合はダメだが、無意識に出てきているような場合は使える。)
④ 器具、器械に関しては、かなり抵抗があるが、きちんと見せたり、可能であれば触らせたりすることで抵抗が少なくなること。
⑤ 初めての器具、器械など、初回は心構えができていないので拒否するかもしれないが、2回目からは抵抗が少なくなることが多いこと(ほとんどがそうであった)。
というようなことを、その時々で伝えさせてもらいました。「K歯科」さんの診察室は十分なスペースがあり、私も付き添って見学することができたので、それぞれの場面で必要なことを伝えることができました。
毎回の診察の流れは、
1.歯磨きをしてもらう。
2.器械でクリーニングしてもらう。
3.各器具、器械を口の中に入れる練習。
といったものでした。
2.のクリーニングは、器械という点(あの削る器械と同じ系列と本人は思っているでしょうから)でかなり抵抗があったようですが、作動している状態で触らせてもらったり、体を起こした状態でやってもらったりすることで、抵抗が無くなっていきました。
また、1.2.の歯磨きとクリーニングは、かなり早い段階で慣れてしまったのですが、きちんといすに仰向けに寝て、「10」数えている間はおとなしく「きをつけ」をしてやってもらう、という練習になりました。
3.では、治療に必要な器具や器械を、見せたり触らせたりしながら、口に入れれるようにしていただきました。一度に何本もできるようにするのは難しかったので、毎回の診療で一本ずつOKな器具を増やしていっていただきました。はじめて見たときは拒否しても、次の診察ではOKのものが多かったです。
私としては、あのキーンという歯を削る器械に関しては、他の器具、器械と違って心配だったのですが、3.のところで練習しました。
他のところはほとんど歯科衛生士さんがしてくださっていたのですが、この削るところは先生しかできないので先生が何回かに分けて練習してくださいました。
その練習は大体こんな感じでした。
1:刃をつけずに本人の目の前で3秒間(又は1秒間)、作動させる。
2:刃をつけず、本人の口の中で作動させる。
3:本人の口の中で、水を出しながら作動させる。
というステップを、実際に歯を削る前の数回の診察で徐々にステップアップしていき、
そして、ついに! 実際に虫歯の箇所を削って治療してもらうことができました!!
実は、そのあとにちょっと落とし穴があって、
先生が虫歯を削ってくださったまでは良かったのですが、そのあと先生が器具を持ってそこを詰めようとしたところ、ひさ吉が抵抗!
ここまできて!?と思ったのですが、
歯科衛生士のお姉さんがやってくれたら、抵抗無くやってもらっていました。
考えてみれば、先生は削る器械の練習はしてくださっていたのですが、「先生が」ミラー以外の器具をひさ吉の口に入れる練習はしていなかったのです。。。
ほんとうに、ごまかしがききません(笑)
私は、今回のことで、小さなステップの積み重ねの大切さを改めて思い知らされました。
そして、
我々のような特異な患者のニーズにも応えてくださった「K歯科」さんはプロだな、と
生意気にも思いました。
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